コラム

2021/03/11

美術館やギャラリーにおける写真の展示⑵ ~解説冊子への写真掲載~

 美術館やギャラリーにおいて写真を展示する場合、展示に関連して、当該写真を解説冊子に掲載することは可能でしょうか。本コラムでは、[前回コラム]美術館やギャラリーにおける写真の展示⑴ ~展示権と所有権~に引き続き、次の事例をもとに検討してみましょう。

【事例】
 美術館Xは、所蔵作品である写真家Yの撮影した写真(以下「本件写真」といいます。)について、写真展を開催しようとしています。

 写真展の開催にあたって、美術館Xが1~4の行為を行う場合、写真家Yの承諾は必要でしょうか。

 なお、本件写真は、写真家Yがフィルムから直接プリントしたオリジナルプリントであり、その著作権は写真家Yが有しているものとします。

1 写真展において本件写真を展示すること …[前回コラム]参照
2 写真展の解説冊子に本件写真を掲載すること
3 観覧者のスマートフォンやタブレット向けに、本件写真の画像を含む解説を配信すること
4 写真展を宣伝するため、本件写真の画像をSNSへ投稿すること

2 写真展の解説冊子に本件写真を掲載すること

写真家Yの権利(複製権)

⑴ まず、本件写真の掲載に関して、写真家Yがどのような権利を有しているか、確認しましょう。
 この点、著作権法21条は、次のとおり複製権という権利を定めています。

著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。                                   

第21条(複製権)

 ここで、「複製」とは、「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」をいいます(著作権法2条1項15号)。

 本件写真を写真展の解説冊子に掲載するためには、本件写真を印刷又は複写すること、すなわち「複製」が必要になります。しかし、著作権法21条によれば、この権利(複製権)は本件写真を撮影した写真家Y(著作者)が有するものです。

⑵ したがって、美術館Xが本件写真を写真展の解説冊子に掲載することは、写真家Yの複製権(著作権法21条)を侵害し、掲載には写真家Yの承諾が必要であるように思えます。

写真の著作物の原作品の展示に伴う複製

⑴ しかし、写真展においては、写真家や作品名を特定し、また鑑賞のポイントを示すため、展示写真を解説冊子に掲載することは珍しくありません。

 また、本件写真は美術館Xが所有するものである以上、美術館Xは、写真家Yの承諾なく写真展で本件写真を展示できます(著作権法25条、45条1項、前回コラム参照)。写真家Y(著作者)としては、本件写真を譲り渡す際に相当の対価を得る機会があった以上、写真展の開催にあたって、本件写真を解説冊子に掲載するという副次的な利用を許容しても、その利益は不当に害されません。

⑵ このような趣旨から、著作権法471は次のとおり規定し、写真の著作物の原作品の展示に伴う複製を認めています。

1 …写真の著作物の原作品により、第25条に規定する権利を害することなく、これらの著作物を公に展示する者(以下この条において「原作品展示者」という。)は、観覧者のためにこれらの展示する著作物(以下この条及び第四十七条の六第二項第一号において「展示著作物」という。)の解説若しくは紹介をすることを目的とする小冊子に当該展示著作物を掲載し、又は次項の規定により当該展示著作物を上映し、若しくは当該展示著作物について自動公衆送信(送信可能化を含む。同項及び同号において同じ。)を行うために必要と認められる限度において、当該展示著作物を複製することができる。ただし、当該展示著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

第47条(美術の著作物等の展示に伴う複製等)

  著作権法47条1項の規定は若干複雑ですが、ポイントとしては、

  1. 写真の著作物の原作品について、展示権(著作権法25条)を害することなく公に展示する者(原作品展示者)は、
  2. 展示著作物の解説又は紹介を目的とする小冊子に対し、
  3. 掲載に必要な限度で展示著作物を複製可能

 ということが重要です。
  すなわち、本件では、

  1. 本件写真(写真の原作品の著作物)について、美術館X(展示権を害することなく公に展示する者)は、
  2. 本件写真の解説又は紹介を目的とする小冊子に対し、
  3. 掲載に必要な限度で本件写真を印刷又は複写でき(複製でき)、この点に間して写真家Yの承諾は不要

 ということになります。

⑶ なお、実務上は、作成された解説冊子、カタログ、図録等が、著作権法47条にいう②展示著作物の解説又は紹介を目的とする小冊子にあたるか否か、問題になることがあります。

 例えば、東京地判平成10年7月24日判自184号28頁では、公立美術館が写真展を開催した際に発行した書籍(著名な海外写真家が著作権を有する写真を含むもの)が、著作権法47条にいう小冊子に該当するか、争点となりました。

1 著作権法四七条は、美術作品又は写真作品を公に展示するに際して、観覧者のための解説・紹介用の小冊子にこれらの作品を掲載するのが通常であることから、その実態とその複製の態様に鑑み、小冊子に著作物の掲載をすることができるとしたものである。したがって、同条に該当する小冊子とは、観覧者のために展示作品の解説・紹介を目的とするものに限られ、観覧者向けであっても、紙質、作品の複製規模・複製態様、作品の複製部分と解説・資料部分との割合等から総合考慮して、鑑賞用の画集・写真集と同視し得るものは、同条所定の小冊子には当たらないと解するのが相当である。

2 本件書籍は、A四変形型(二九七ミリメートル(以下「ミリ」と省略する。)×二一五ミリ)の規格で、上質のアート紙を使用したものであり、装丁はペーパーバックの簡易装丁である。そして、表紙を含めて全体で一六八頁であるところ、その内一二二頁には本件写真展で展示された作品(写真)一三四点が掲載されており、しかもそのほとんどが一頁につき一点掲載され、各作品の左下には、作品の題名、撮影年、写真の大きさなどが小さな文字で記載されている。また、その余の頁には、専門家及び被告財団の職員による著述、被告財団の職員による作家解説及び出展作品リスト等が掲載されている。なお、本件写真展で展示された作品は、本件写真を含めいずれもモノクロ写真であり、本件書籍も二色刷りである。(〔証拠略〕、弁論の全趣旨)
 本件写真は、本件書籍の九二頁から九八頁にかけて、一頁に一点ずつ掲載され、大きいもので約一九〇ミリ×約一三五ミリ(番号七五の写真)、小さいもので約一一七ミリ×約一七九ミリ(番号七九の写真)であり、実際の写真の約五分の三の大きさ(番号七六の写真については、約三分の二の大きさ)である。そして、右複製写真の左下には、作品の題名、撮影年、写真の大きさなどが小さな文字で記載されている。(〔証拠略〕)

3 右のとおり、本件書籍は作品の掲載が中心となっており、その解説・資料は付随的に掲載されているに過ぎず、作品の複製規模・複製態様も充分鑑賞に堪えるものであり、以上のような、本件書籍の紙質、作品の複製規模・複製態様、作品の複製部分と解説・資料部分との割合等を総合考慮すると、本件書籍は鑑賞用の写真集と同視し得ると認められるものであり、著作権法四七条所定の小冊子に該当すると解することはできない。

▶ 東京地判平成10年7月24日判自184号28頁 

 このように、東京地判平成10年7月24日判自184号28頁は、①書籍の紙質、②作品の複製規模・複製態様、③作品の複製部分と解説・資料部分との割合等を総合考慮して、書籍が鑑賞用の写真集と同視し得るものは著作権法47条にいう小冊子には該当しない、という判断基準を採用しました。そのうえで、当該事案においても、写真展開催時に発行された書籍の小冊子該当性を否定しています。

 なお、上記裁判例の判断基準からすると、仮に、写真展開催時に発行された書籍がカラー印刷であっても、その他の要素を考慮した結果、書籍が鑑賞用の写真集と同視し得ないのであれば、著作権法47条にいう小冊子に該当する可能性はあるものと考えます。

結論

 したがって、美術館Xは、本件写真を掲載した写真展の解説冊子が展示著作物の解説又は紹介を目的とする小冊子にあたる場合、写真家Yの承諾を得ることなく、同解説冊子に本件写真を掲載することが可能です(著作権法47条1項)。

 また、この場合、美術館Xは、本件写真を掲載した写真展の解説冊子を不特定多数の観覧者に販売することもできます(著作権法47条の7)。

次回のコラムでは、平成30年著作権法改正を踏まえ、

3 観覧者のスマートフォンやタブレット向けに、本件写真の画像を含む解説を配信すること
4 写真展を宣伝するため、本件写真の画像をSNSへ投稿すること

について、引き続き検討を加えたいと思います。

弁護士 弁理士 片木 研司

所属
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