経営紛争が発生したとき、最初に確認すべき5つのポイント
企業が経済活動を行う中で紛争の発生は不可避ですが、紛争が生じた際には「勝てるのか」という見極めが極めて重要になります。そのためには、まず迅速に法務セクションへ情報を集約し、社内に存在するリソースの調査と保全を最優先で行わなければなりません。また、紛争の規模や性質を多角的に分析し、裁判のみならず和解やADR(裁判外紛争解決手続)などの多様な手段から、経営判断として最適な解決策を選択することが求められます。
目 次 [close]
1. 迅速な情報集約と法務セクションへの報告
紛争を有利に解決するための第一歩は、紛争発生の情報をできるだけ早く法務セクションへ届けることです。紛争は時間の経過とともに発展・拡大する性質を持っており、初期段階で対応するほどダメージを最小化できる可能性が高まります。営業部門や苦情処理部門が覚知したクレームや紛争の予兆を、ただちに法務担当者に連絡する社内ルールを形成し、周知徹底しておくことが肝要です。
2. 社内リソースの確認と証拠の保全
紛争の可能性を認識した時点で、まず社内に存在するリソース(関係者、関係書類、関係物件)の調査と保全を開始する必要があります。具体的には、以下の対応が求められます。
ヒアリングと書類精査
関係者からの聞き取りや、契約書、通信記録、稟議書などの書類をレビューし、事実関係を時系列表(Chronology of Events)にまとめます。
証拠の消失防止
担当者の離職や配置転換、PCの故障、製品在庫の流出などにより、証拠が失われるリスクを回避しなければなりません。米国法上の「リティゲーション・ホールド(Litigation Hold)」のように、関連書類を破棄しないよう社内に徹底することが重要です。
3. 紛争の規模と法的リスクの正確な推定
収集した情報に基づき、紛争の大きさを多角的に分析します。単なる金銭的な損害(定量リスク)だけでなく、社会的な信用の毀損や他の取引への影響(定性リスク)を考慮する必要があります。また、以下の法的側面も検討事項に含まれます。
法的義務の有無
損害賠償義務の有無や、証券取引所への適時開示、業法上の報告義務の対象か否かを確認します。
集団的波及性
個別には少額であっても、日本版クラス・アクションのように多数の被害者が関わる可能性がある場合は、紛争の広がりを考慮しなければなりません。
4. 専門家への相談と「勝てるか」の見極め
紛争が複雑化・専門化する現代において、豊富な経験を持つ弁護士への相談は不可欠です。弁護士のアドバイスを踏まえ、その紛争に「勝てるのか」を吟味します。勝つ見込みがないにもかかわらず無理に争うことは、無駄な労力や費用を要し、企業の信用問題にもつながりかねません。日本の民事訴訟では当事者による主張立証が重視されるため、事実を的確に裏付ける証拠があるかどうかが判断の鍵となります。
5. 最適な解決手段の選択と経営判断
「紛争解決」は必ずしも「訴訟」を意味しません。以下のような多様な選択肢を検討し、経営判断として最適な着地点を決定します。
迅速な解決やビジネスの継続を優先し、和解を検討します。ただし、製品の欠陥や知財問題など、経済的理由だけで安易に妥協すべきでないケースもあります。
ADR(裁判外紛争解決手続)
非公開で柔軟な解決が可能な知財調停やADRを活用し、専門的な事項に迅速に対応する枠組みを検討します。
紛争の防止
PFI事業などの長期契約では、平時からのコミュニケーションを密にし、紛争調整会議などの協議の場を設けることで、紛争の深刻化を未然に防ぐ仕組みを構築することが望ましいとされています。
結論
経営紛争が発生した際には、①迅速な情報集約、②徹底した証拠保全、③リスクの多角的な分析、④専門家による見極め、⑤柔軟な解決手段の選択、という5つのポイントを軸に対応することが、企業の損失を最小限に抑え、確実な解決へと導く鍵となります。
※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。
弁護士 小西 憲太郎
- 所属
- 大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事
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