コラム

2023/11/20

アート作品のオンライン販売における作品画像の掲載⑵~ギャラリーにおけるアート作品の取引形態(買取方式と委託販売方式)~

ECサイトの商品ページに掲載可能な画素数

 前回のコラムでは、アート作品のオンライン販売における作品画像の掲載に関し、【事例1】を題材に基本的な内容を解説しました。

【事例1】
 ギャラリーXは、アート作品を取り扱うECサイトを運営しています。
 ギャラリーXが、若手アーティストAの作品(油彩画)をオンライン販売するにあたり、作品を撮影して、画像をECサイトの商品ページに掲載することは、著作権法上どのような問題があるでしょうか。
 なお、当該作品は、ギャラリーXがアーティストAから買い取り、所有しているものとします。

 【事例1】の結論は、

  • ギャラリーXが、アーティストAの作品(油彩画)をオンライン販売するにあたり、作品を撮影して、画像をECサイトの商品ページに掲載することは、著作権法との関係で適法である(著作権法47条の2)。
  • ただし、複製防止手段を用いない場合ECサイトに掲載可能な画素数は「3万2400画素以下」に留まる(著作権法47条の2、著作権法施行令7条の3第2号イ及び著作権法施行規則4条の2第2項1号)。
  • 3万2400画素を超える高画素の画像を掲載するためには、作品の著作権者であるアーティストAの許諾を得る必要がある。

というものでした。

 本コラムでは、前回コラムに引き続き、「アート作品のオンライン販売における作品画像の掲載」について検討しましょう。

ギャラリーがアート作品の所有者ではなく、販売委託を受けた者である場合

【事例2-1】
 ギャラリーYは、アート作品を取り扱うECサイトを運営しています。
 ギャラリーYが、若手アーティストBの作品(油彩画)をオンライン販売するにあたり、作品を撮影して、画像をECサイトの商品ページに掲載することは、著作権法上どのような問題がありますか。
 なお、当該作品はアーティストBが所有しており、ギャラリーYは、アーティストBから作品を預かり、販売委託を受けているものとします。

(1) アート作品の市場及びプレイヤー

 【事例1】のギャラリーXは、商品であるアーティストAの作品を所有していました。しかし、【事例2-1】のギャラリーYは、これとやや異なっています。具体的には、アーティストBの作品の所有者アーティストBであり、ギャラリーYは作品を預かり、販売委託を受けているに留まります。
 この点について、まずは、アート作品の市場及びプレイヤーを整理しておきましょう。

 アート作品の市場には、プライマリーマーケット(アーティストの新しい作品が販売される一次市場)とセカンダリーマーケット(プライマリーマーケットで販売された作品が、最初の購入者の手元を離れて転売される二次市場)があります。

〈出典〉竹下智「資産クラス/投資対象としてのアート : 富裕層はなぜアートに投資するのか」野村資本市場クォータリーVol.24-3(2021年)177頁

 このうち、プライマリーマーケットを構成するプレイヤーとして、アーティストギャラリーが挙げられます。ギャラリーは、アーティストとコレクターを繋ぐ媒介としてアート作品の取引を行うとともに、アーティストを発掘し、キャリアを形成する役割も担っています。
 両者は、基本的には緩やかな協力関係にあり、一人のアーティストの作品が複数のギャラリーで取り扱われていることもあります。もっとも、アーティストとギャラリーの間で専属的な制作販売の合意がなされた場合は、当該合意に基づく義務を負います1

(2) ギャラリーにおけるアート作品の取引形態(買取方式と委託販売方式)

 次に、ギャラリーにおいて、アート作品は具体的にどのように取引されているか、確認しましょう。その取引形態としては、大きく分けて次の2種類があるといわれています。

買取方式  ギャラリーがアーティストからアート作品を買い取り、ギャラリーが所有者となった上で、コレクターに対し、アート作品を販売する方式。 【事例1】
委託販売方式  ギャラリーがアーティストからアート作品を預かり、その販売委託を受けた上で、コレクターに対し、アート作品を販売する方式。 【事例2-1】

 事例との関係では、【事例1】は買取方式、【事例2-1】は委託販売方式に対応しています。
 なお、実際の取引では、委託販売方式が多く用いられます。これは、買取方式の場合、ギャラリーは、(アート作品を販売する前提として)アーティストに対し買取代金を支払う必要がある一方、委託販売方式の場合には、そのような経済的負担がないからです。

 委託販売方式の場合、ギャラリー(受託者)はアート作品を預かっているだけであり、その所有権はアーティスト(委託者)が有しています。そして、ギャラリーは、委託者であるアーティストのために、買い手であるコレクターとの間で自ら売買契約を締結し、受領した売買代金から手数料を控除した残額をアーティストに支払うことになります2

(3) 著作権法47条の2に基づき複製又は公衆送信を行うことができる主体

 以上のとおり、ギャラリーは、アート作品を販売する際、必ずしもその所有権を有しているわけではありません。それでは、【事例2-1】のように、ギャラリーYが、委託販売方式のもとアート作品をオンライン販売する場合であっても、作品画像をECサイトの商品ページに掲載できるでしょうか。

 著作権法47条の2の規定は次のとおりです(下線は筆者によります。)。

第四十七条の二 美術の著作物又は写真の著作物の原作品又は複製物の所有者その他のこれらの譲渡又は貸与の権原を有する者が、第二十六条の二第一項又は第二十六条の三に規定する権利を害することなく、その原作品又は複製物を譲渡し、又は貸与しようとする場合には、当該権原を有する者又はその委託を受けた者は、その申出の用に供するため、これらの著作物について、複製又は公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)(当該複製により作成される複製物を用いて行うこれらの著作物の複製又は当該公衆送信を受信して行うこれらの著作物の複製を防止し、又は抑止するための措置その他の著作権者の利益を不当に害しないための措置として政令で定める措置を講じて行うものに限る。)を行うことができる。

(美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等)

 上記のとおり、著作権法47条の2に基づき複製又は公衆送信を行うことができる主体(【事例2-1】との関係では、オンライン販売にあたり、アーティストBの作品の画像をECサイトの商品ページに掲載することができる主体)は、

① 美術の著作物又は写真の著作物の原作品又は複製物の譲渡又は貸与の「権原を有する者」
又は
② ①の「権原を有する者」から「委託を受けた者」

とされています。

 ①の例としては、所有者、所有者の代理人等が挙げられます。買取方式の場合のギャラリー(【事例1】のギャラリーX)は①にあたるでしょう。
 他方で、②には、①の「権限を有する者」から譲渡又は貸与に関する事務の委託を受けたオークション業者、ギャラリー等があたります。
 先述のとおり、【事例2-1】では委託販売方式が採用されており、ギャラリーYは、アーティストBから作品を預かり、販売委託を受けています。この委託にあたり、ギャラリーYが譲渡に関する代理権まで授与されたかは不明です3。もっとも、代理権が授与されていなかったとしても、ギャラリーYは少なくとも②にあたり4著作権法47条の2に基づき複製又は公衆送信を行うことができる主体といえます。

 したがって、ギャラリーYが、委託販売方式のもとアーティストBの作品をオンライン販売するにあたり、作品を撮影して、画像をECサイトの商品ページに掲載することは、著作権法47条の2のその他の要件を満たす限り、適法です。

 このように、ギャラリーがアート作品の所有者ではなく、販売委託を受けた者である場合についても、著作権法47条の2は適用されます。

著作権法47条の2が特に効果を発揮する場面(補論)

(1)【事例2-1】に対する疑問

 ここまでが著作権法47条の2についての解説ですが、【事例2-1】については、次のような疑問も生じます。

(2) ギャラリー・アーティスト間の契約による権利処理

 上記疑問が指摘する内容は、まさにもっともです。

 まず、買取又は委託販売という形式はともかく、プライマリーマーケットにおいて、ギャラリーはアーティストと直接交渉をする機会「タッチポイント」)があります。それゆえ、ギャラリーとしては、買取又は委託販売の条件交渉と併せて、作品画像をECサイトの商品ページに掲載することをアーティストに提案することが可能です。先述したとおり、プライマリーマーケットにおいて、ギャラリーとアーティストは、作品を介した緩やかな協力関係で結ばれているため、画像掲載について許諾を得るハードルは高いとはいえません。

 特に、【事例2-1】のような委託販売方式の場合、アーティストは、ギャラリーに作品を預けた時点では、何らの支払も受けることはできません。そのため、アーティストは、ギャラリーが買い手であるコレクターを見つけ、作品が販売されなければ支払を受けられない立場にあり、販売の実現に経済的なインセンティブを有しています。換言すれば、「作品が売れるか売れないか」について、アーティストとギャラリーは利害を共通しているのです。そして、オンライン販売にあたり、作品画像が果たす役割の重要性も鑑みれば、アーティストには、作品画像の掲載を許諾する経済的なメリットがあるといえます。

 また、ギャラリーとしても、複製防止手段を用いない場合、著作権法47条の2に基づきECサイトの商品ページに掲載可能な画像の画素数は、3万2400画素以下に過ぎません。しかし、スマートフォンのカメラであっても1000万画素を超える時代にあって、3万2400画素の低画素の画像では、作品の状態や詳細を確認したいというユーザーのニーズに応えることはできないでしょう。そして、3万2400画素を超える画素の画像を掲載するには、結局、作品の著作権者であるアーティストの許諾を得る必要がある以上、ギャラリーは、買取又は委託販売の条件交渉と併せて当該許諾を得るほかなく、著作権法47条の2のメリットは限定的です。

 このように、プライマリーマーケットを前提とすると、ギャラリーとアーティストには「タッチポイント」がある以上、作品画像の掲載については、ギャラリーがアーティストから直接許諾を得る、つまり、両当事者の契約によって権利処理を行うことが可能です。それゆえ、プライマリーマーケットにおいては、著作権法47条の2の「有難み」を実感する場面は少ないといえるでしょう。

(3)【事例2-2】セカンダリーマーケットにおけるギャラリーとアーティストの関係性

 では、著作権法47条の2は、どのような場面で効果を発揮するのでしょうか。答えは、セカンダリーマーケットです。
 先述のとおり、セカンダリーマーケットは、プライマリーマーケットで販売された作品が、最初の購入者の手元を離れて転売される二次市場です。セカンダリーマーケットの実例として最もイメージしやすいものは、オークションでしょう。セカンダリーマーケットにおいて、作品は、アーティストから離れた「n次売買」として取引されており、これにアーティストが関与することはありません。

【事例2-2】
 ギャラリーYが委託販売を行っていたアーティストBの作品は、あるコレクターが購入しました。その後、同作品は、数人のコレクターの手を経て、現在、ギャラリーZが所有しています。
 ギャラリーZが、アーティストBの作品をオンライン販売するにあたり、作品を撮影して、画像をECサイトの商品ページに掲載する場合、どのような方法が採り得るでしょうか。

 セカンダリーマーケットにおけるギャラリーとアーティストの関係性を考えるため、【事例2-2】を考えてみましょう。

 【事例2-1】のギャラリーYとアーティストBは、プライマリーマーケットのプレイヤー同士であったため、直接の取引関係にあり、タッチポイントがあったことは先述のとおりです。
 しかし、【事例2-2】では、アーティストBからすると、ギャラリーZによるオンライン販売は、全く与り知らない出来事です。そもそも、アーティスト自身は、一旦作品が手元を離れると、どのような経緯を経て、現在、誰が作品を所有しているかという来歴を知ることはできません。そのため、アーティストBは、作品をギャラリーZが現在所有していることさえ、認識できていないでしょう。
 つまり、セカンダリーマーケットにおいて、ギャラリーとアーティストの間には、商流上、「タッチポイント」が存在しないのです。

 かかる場合、仮に著作権法47条の2が存在しなければ、ギャラリーZは、作品画像をECサイトの商品ページに掲載することの許諾を、作品の著作権者であるアーティストBから直接得る必要があります。しかし、ギャラリーZからすれば、アーティストBとの「タッチポイント」が存在しなかった以上連絡先を把握していないことが通常であり、連絡をとるにも困難が予想されます。
 仮に連絡がとれたとしても、アーティストBから許諾を得ることができるかは不透明です。なぜなら、セカンダリーマーケットにおいて、ギャラリーによる作品の販売が実現したとしても、アーティストは、法律上、その利益配分を受ける権利を持たないため5、「作品が売れるか売れないか」について、ギャラリーと利害を共通にしていないからです。また、許諾を得られた場合でも、高額なライセンス料の支払が条件となる可能性もあり、結果として、画像掲載の許諾がボトルネックとなって、販売を実現できない事態も想定されます。

 このようなセカンダリーマーケットにおいて、特に効果を発揮するのが著作権法47条の2といえます。
 【事例2-2】において、著作権法47条の2が適用される結果、作品の所有者であるギャラリーZは、(3万2400画素以下という縛りはあるものの)、アーティストBと連絡をとることも、許諾を得ることもなく、オンライン販売にあたり、作品を撮影して、画像をECサイトの商品ページに掲載することが可能となります。つまり、著作権法47条の2は、セカンダリーマーケットのように、ギャラリーとアーティストの間に「タッチポイント」が存在しない場合であっても、法律上、一定の条件の下で作品画像の掲載を許容した点に意義があるといえ、ここに、著作権法47条の2の「有難み」を実感することができるでしょう。

(4) アート作品の取引と著作権法47条の2の趣旨

 著作権法47条の2の趣旨は、「美術作品等の所有者が行う適法な取引に際して、商慣習上必要不可欠な紹介画像の掲載等が、著作権を理由に不可能になることによって、取引自体が行えなくなってしまう事態を防ぐこと」にあり、著作物が化体した有体物の所有権と、当該著作物に係る著作権の調整を図る規定の一つである6」とされています。
 アート作品の取引の場合、プライマリーマーケット、セカンダリーマーケットそれぞれにおけるギャラリーとアーティストの関係性を考慮すると、かかる趣旨もより深く理解することができるように思われます。

 以上、補論として、著作権法47条の2が特に効果を発揮する場面について掘り下げて検討いたしました。
 次回のコラムにおいても、引き続き著作権法47条の2について取り上げたいと思います。

1 専属的な制作販売の合意が問題となった裁判例として、東京地判令和元年9月27日(平成28年(ワ)38221号)裁判所ウェブサイトがあります。同裁判例は、ギャラリーを経営する法人が、著名な日本画家に対し、「当該画家が制作した作品は、原則として当該ギャラリーを経由して販売する。」という専属的制作販売義務に違反したとして損害賠償を請求した事案であり、判決において、その請求は一部認容されました。

2 委託販売方式におけるギャラリーは、商法上の問屋(551条)にあたります。具体的には、ギャラリーは、コレクターとの間の売買契約の当事者となって、他人(委託者)であるアーティストのために(アーティストの計算で)、アート作品を売買するものといえます(島田真琴『アート・ロー入門 美術品にかかわる法律の知識』89頁(慶應義塾大学出版会,2021年)参照)。

3 前掲注2記載の島田89頁は、「売主から販売を委託された美術商は、販売代理権の付与は受けずに美術品を買主に売却している。」としています。

4 結局、②に当たる場合とは、オークション業者、ギャラリー等が、代理権を授与されておらず、オークションへの出品事務や譲渡又は貸与に関する事務の委託のみを受けている場合となります(小泉直樹外『条解著作権法』532頁〔奥邨弘司〕(弘文堂,2023年)、池村聡『著作権法コンメンタール別冊 平成21年改正解説』66頁(勁草書房,2010年)等参照)。

5 海外では、「美術の著作物の著作者が、その原作品の転売に関して一定の利益配分を受けることができる報酬請求権」(追求権)が設けられている立法例がありますが、日本において追求権制度は採用されていません(半田正夫=松田政行編『著作権法コンメンタール〔第2版〕2』496頁〔上野達弘〕(勁草書房,2015)参照)。

6 小泉直樹外『条解著作権法』531頁〔奥邨弘司〕(弘文堂,2023年)参照

弁護士 弁理士 片木 研司

所属
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