アート作品のオンライン販売における作品画像の掲載~ECサイトの商品ページに掲載可能な画素数~
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アート作品のオンライン販売と作品画像の役割
(1) アート作品のオンライン販売の現状
近時、アート作品のオンライン販売は、世界的に増加傾向にあるとされています。

〈出典〉経済産業省商務・サービスグループクールジャパン政策課
「アートと経済社会について考える研究会 第3回 ~アートと流通・消費~」37頁
最新の2023年版の報告書(The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2023)によれば、コロナ禍の影響が落ち着いた2022年は、展示会、オークション、フェアが充実したスケジュールで開催されたため、コレクターがライブイベントやセールに再び参加し始め、オンライン販売は前年比でやや減少したとされています。もっとも、その売上高は110億ドル、割合は16%と、コロナ禍以前の2019年と比較すると高い水準を維持しています。
日本においても、インターネットオークション、ギャラリーのオンラインショップといった形態に加え、複数のギャラリーが出店するオンラインマーケットプレイスや、オンラインで販売・レンタルを行うプラットフォームのような新たなサービスが出現しています。
(2) オンライン販売において、アート作品の画像が果たす役割
オンラインでアート作品を購入する場合、最も気になる点の一つは、「作品の現物が一体どのようなものか。」という点です。
ギャラリーの実店舗やオークションの下見会に出向けば、現物を確認して、作品の表現、色合い、状態等を把握することができます。しかし、オンラインの購入では、(個別の問い合わせを除くと)主たる方法は、Webサイトの商品ページに掲載された作品の画像の確認となります。
そのため、オンライン販売において、アート作品の画像が果たす役割は極めて大きいものです。仮に、作品の現物を見れば素晴らしい作品であっても、商品ページに小さな画像が掲載されているだけでは、ユーザーが作品の詳細を確認できず、情報提供として不十分ですし、その結果、購入に至らない可能性もあるといえます。
では、アート作品のオンライン販売にあたり、Webサイトの商品ページに高画素の画像を掲載することは可能でしょうか。そもそも、アート作品を撮影して、その画像を商品ページに掲載することは、作品の著作権との関係で問題ないでしょうか。
以下、次の事例をもとに検討してみましょう。
【事例】
ギャラリーXは、アート作品を取り扱うECサイトを運営しています。
ギャラリーXが、作者Aの作品(油彩画)をオンライン販売するにあたり、作品を撮影して、画像をECサイトの商品ページに掲載することは、著作権法上どのような問題があるでしょうか。
なお、ECサイトで販売するアート作品はギャラリーXが所有しており、かつ、その作者は存命であるものとします。
オンライン販売にあたり、作品を撮影して、画像をECサイトの商品ページに掲載すること
(1) 平成21年改正による著作権法47条の2の新設
作者Aの作品(油彩画)は、「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に該当します。そして、ギャラリーXが作品を撮影して、画像をECサイトの商品ページに掲載することは、著作権法上、美術の著作物を「複製」し「公衆送信」する行為といえますので、作者Aの複製権(著作権法21条)及び公衆送信権(著作権法23条)を侵害する可能性があります。
もっとも、「このような場合の画像は,商品情報の提供として取引に不可欠なものであり,その譲渡等が著作権侵害とならない場合があるにも関わらず,画像掲載に関する著作権の問題(複製権や公衆送信権)を理由に事実上譲渡等が困難となる1」ことは本末転倒です。

〈出典〉文化庁 平成21年通常国会 著作権法改正等について「著作権法の一部を改正する法律 概要」5頁
そこで、平成21年改正によって、著作権法47条の2が新設され、現在では、美術品や写真の取引のために、カタログやウェブサイトに商品画像を掲載することは一定の条件で許容されています。
第四十七条の二 美術の著作物又は写真の著作物の原作品又は複製物の所有者その他のこれらの譲渡又は貸与の権原を有する者が、第二十六条の二第一項又は第二十六条の三に規定する権利を害することなく、その原作品又は複製物を譲渡し、又は貸与しようとする場合には、当該権原を有する者又はその委託を受けた者は、その申出の用に供するため、これらの著作物について、複製又は公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)(当該複製により作成される複製物を用いて行うこれらの著作物の複製又は当該公衆送信を受信して行うこれらの著作物の複製を防止し、又は抑止するための措置その他の著作権者の利益を不当に害しないための措置として政令で定める措置を講じて行うものに限る。)を行うことができる。
美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等
【事例】において、ギャラリーXは、作品の所有者とされていますから、「美術の著作物…の原作品…の所有者」にあたりますし、「第二十六条の二第一項又は第二十六条の三に規定する権利を害することなく、その原作品…を譲渡…しようとする場合」にも該当します。また、販売にあたり、作品を撮影して、画像をECサイトの商品ページに掲載することは、譲渡の「申出の用に供するため」の「複製又は公衆送信」といえます。
したがって、ギャラリーXが、作者Aの作品(油彩画)をオンライン販売するにあたり、作品を撮影して、画像をECサイトの商品ページに掲載することは、著作権法との関係で適法です(著作権法47条の2)。
(2) ECサイトの商品ページに掲載可能な画素数
それでは、ギャラリーXは、どの程度の画素の画像をECサイトの商品ページに掲載できるでしょうか。
ここで、著作権法47条の2は、「複製又は公衆送信」について
「…複製又は公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)(当該複製により作成される複製物を用いて行うこれらの著作物の複製又は当該公衆送信を受信して行うこれらの著作物の複製を防止し、又は抑止するための措置その他の著作権者の利益を不当に害しないための措置として政令で定める措置を講じて行うものに限る。)…」
としています。
したがって、ギャラリーXが商品ページに掲載できる画像は、「著作権者の利益を不当に害しないための措置として政令で定める措置を講じて行うもの」でなければいけません。
ここにいう「著作権者の利益を不当に害しないための措置」の具体的な内容は、著作権法施行令7条の3に、さらにその具体的な基準は、著作権法施行規則4条の2に規定されています。これらのうち、ECサイトの商品ページに画像を掲載する場合(公衆送信の場合)の基準2は、次表のとおりです。
① | 複製防止手段3を用いる場合 | 9万画素以下 |
② | 複製防止手段を用いない場合 | 3万2400画素以下4 |
③ | ①②に該当しない場合 | 著作物の表示の精度が、著作物の原作品や複製物の大きさ又は取引の態様その他の事情に照らし、譲渡又は貸与の申出のために必要な最小限度(複製防止手段を講じる場合は、必要と認められる限度)のものであり、かつ、公正な慣行に合致するものであると認められること5 |
それゆえ、②複製防止手段を用いない場合、ギャラリーXが商品ページに掲載できる画像は「3万2400画素以下」(正方形の場合:180ピクセル×180ピクセル)となります。
実際に3万2400画素以下の画像を確認していただくと6、②の基準を満たす画像について「小さい」という印象を抱く方が多いと思います。もっとも、著作権法47条の2によって商品ページに掲載できる画像は、上記①~③の基準を満たすものでなければならず、これを超える高画素の画像を掲載するには、作品の著作権者である作者Aの許諾を得る必要があります。
そのため、例えば、ギャラリーXが作者Aから作品を直接購入するような場合ですと、購入時に、作品のオンライン販売にあたってECサイトの商品ページに高画素の画像を掲載したい旨伝え、作者Aから予め許諾を得ておくことが考えられます。
終わりに
以上、本コラムでは、アート作品のオンライン販売における作品画像の掲載について、基本的な内容を説明いたしました。ご参考になれば幸いです。
1 文化庁「著作権法の一部を改正する法律(平成21年改正)について(解説)」4頁
2 正確には、表記載の基準で問題となるのは、アート作品それ自体の画像の画素数(著作物に係る影像を構成する画素数)であり、アート作品を撮影した画像全体(額縁や作品外の余白を含むもの)の画素数ではないとされています(半田正夫=松田政行編『著作権法コンメンタール〔第2版〕2』491頁〔上野達弘〕(勁草書房,2015)参照)。
3 複製防止手段とは、「複製…を電磁的方法…により防止する手段であつて、著作物の複製に際しこれに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物とともに送信する方式によるもの」(著作権法施行令7条の3第2号ロ)とされています。もっとも、具体的にどのようなものが「複製防止手段」にあたるか、必ずしも明確ではありません(半田正夫=松田政行編『著作権法コンメンタール〔第2版〕2』492頁〔上野達弘〕(勁草書房,2015)参照)。
4 この「3万2400画素以下」という基準は、平成30年改正後の著作権法47条について公表された「美術の著作物等の展示に伴う複製等に関する著作権法第47条ガイドライン」が採用した基準(インターネット等による展示施設外でのデジタル画像の利用にあたっての画素数)と同一です。展示の宣伝のために美術館が作品の画像をSNSへ投稿することの可否や、著作権法47条の改正内容については、以前にこちらのコラム(美術館やギャラリーにおける写真の展示⑶ ~平成30年著作権法改正~)で取り上げました。
5 例えば、100号のような大型キャンパスに描かれた作品を販売する場合や、作品の汚損、破損等のコンディションを情報提供する場合において、高画素の画像を掲載することは③の基準を満たすように思われます。
6 2万2860画素の画像例が掲載されたものとして、佐賀県立図書館ウェブサイト「児童書の表紙画像の利用」があります。

弁護士 弁理士 片木 研司
- 所属
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