コラム

2023/08/07

夫婦同居調停について

 夫婦の生活スタイルについて、一方は同居を希望しているものの、他方は別居を希望していることがあります。夫婦間で別居が開始した場合、同居を再開させる方法はあるのでしょうか。

 本コラムでは、別居中の配偶者に対し、同居を求める調停・審判申立てについて解説いたします。

夫婦の同居義務

 夫婦には同居して生活する義務がありますので、正当な理由もなく別居することは原則として認められません。

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

民法752条

 また、上述の民法752条を根拠として、夫婦の一方は、他方配偶者に対し、同居を求めることができると考えられています。

夫婦同居を求める調停・審判とは

 夫婦の同居を求める調停申立てについては、家事事件手続法別表第2の1で規定されています。調停で話し合いがまとまらない場合、審判手続きに移行し、夫婦間の諸事情を考慮して同居を命ずるか否かが決まります。

 もっとも、同居を命じる審判がなされても、同居はその性質上、強制執行にも間接強制にもなじまないため、相手方が任意に履行することを期待するほかありません。そのため、配偶者が夫婦同居を命じる審判に従わなかったとしても、離婚原因の1つとして斟酌されるにすぎません。

 なお、実務では夫婦関係調整調停を申し立てて、夫婦関係の調整を行うケースが多いです。

調停手続

 調停は相手方の住所地、または当事者の合意で定めた家庭裁判所に申立てを行います。申立てに必要なものは以下となります。

  • 収入印紙 1,200円
  • 予納郵券 各家庭裁判所によって異なりますので、事前に管轄裁判所にお問い合わせください。
  • 夫婦の戸籍謄本 1通

 裁判官と家事調停委員(事案によっては家庭裁判所調査官も)からなる調停委員会が当事者双方から話を聞き、必要があれば事実の調査等を行います。当事者の合意ができれば調停成立とし、合意内容が調停調書に記載されます。当事者間に合意する見込みがないと調停委員会が判断した場合には調停不成立となり、審判手続に移行します。

 なお、夫婦の同居を求める調停は、調停に代わる審判ができるため、わずかな相違で合意に至らない場合などは、諸事情を考慮して解決案を審判(裁判官の判断)という形で提示することもあります。

審判手続

 夫婦の同居を求める調停には調停前置主義の適用はないため、はじめから審判の申立をすることも可能です。もっとも、実務上は調停に付して手続を進めることが多いです。

 審判は、夫または妻の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者の合意で定めた家庭裁判所に申立てを行います。

 審判の申立てに必要な書類は以下となります。

  • 収入印紙 1,200円
  • 予納郵券 各家庭裁判所によって異なりますので、事前に管轄裁判所にお問い合わせください。
  • 夫婦の戸籍謄本 1通

 家庭裁判所は原則として当事者の陳述を聴かなければなりません。家庭裁判所が審問の期日を開いて当事者の陳述を聞くことにより事実の調査をするときは、他方当事者は原則的に当該期日に立ち会うことができます。調停不成立によって審判手続に移行した場合であっても、調停の際に提出された資料が当然に資料となるわけではなく、審理に必要な範囲で調停記録について事実の調査をすることで初めて審判における判断資料となります。

 審判が終結すると、審判日が設けられます。審判の告知は当事者に対して審判書正本または謄本を特別送達する方法で告知されることが一般的です。審判に対して不服がある場合、審判の告知を受けてから2週間以内であれば即時抗告をすることができます。

審判例

東京高決平成12年5月22日決定

 婚姻後10年以上経過した時点で妻が長女を連れて夫と別居した事案です。

 原審では夫の妻に対する同居を求めた申立は却下されましたが、即時抗告審においては、夫婦の同居は夫婦共同生活における本質的な義務であり、夫婦関係の実を挙げるために欠くことのできないものであるから、同居を拒否する正当な事由がない限り、夫婦の一方は他の一方に同居の審判を求めることができると解すべきであるとして、本件において妻が夫と同居することを拒否する正当な事由があると認めることはできない旨判示し、妻に同居を命じました。

東京高裁平成13年4月6日決定

 妻の夫に対する同居請求等をいずれも却下した審判に対する即時抗告審です。裁判所は、夫婦の関係、互いの感情等に徴すると、仮に同居を命ずる審判がされたとしても、夫婦がその同居により互いに助け合うよりも、むしろ一層互いの人格を傷つけ又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が極めて高いと認められるので、同居を命じるのは相当でないなどとして即時抗告を棄却しました。

まとめ

 夫婦関係でお悩みの方は、一度ご相談いただければと思います。

弁護士 田中 彩

所属
大阪弁護士会

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